001 北斗南斗桑下囲棋〜寿命は占いでわかるのか?
◇ 生と死を司る星
中国三国時代の管輅(かんろ)は、未来を見通す不思議な能力があり、人の寿命をあまりにもぴたりと言い当てるので、人の心を不安にさせることもあったと言われます。
あるとき管輅は、19歳の若者の顔相を見て、彼があと数日で死ぬと告げました。若者は自分の死を先送りしたいと必死で嘆願したところ、管輅はこう言いました。
「卯の日に麦を刈る麦畑の南に大きな桑の木がある。碁を打つ老人二人が桑の木の下にいるので、ひたすら肉と酒を献上し続けろ。決して喋ってはいけない」
その通りに行ってみると、ひとりの老人は朱色の着物、もうひとりの老人は暗青色の着物を着ていて、ふたりで囲碁をしていました。ふたりは、若者が供え続ける肉を食べて酒を飲みながら、そのまま勝負に夢中になっていました。
勝負が終わると、暗青色の着物の厳しい顔の老人は「お前は何者だ。なぜここにいる」と、若者を詰問しました。朱色の着物の柔和な老人は「まぁまぁ、さっきからご馳走を出してもらったじゃないか。少しは情けをかけてやろう」と仲裁に入り、その懐から人間の寿命が記録されている帳面を出しました。
赤い着物の老人は、「なるほど、おまえは寿命十九歳。ほれ、こうすればよい」と、帳面に記された若者の寿命を九十歳に書き換えて、こう言いました。「お前をここに向かわせたのは、管輅だな。 今後決して天機(天の秘密)をもらさぬよう、もらせば天のお咎めがあるであろう。 と伝えておけ」若者は老人たちに頭を下げて、家に帰りました。
管輅曰く、北側に座っていた青い着物の老人は北斗星(北極老人)で、南側に座っていた赤い着物の老人は南斗星(南極老人)だといいます。古来より、南斗星は生を定め、北斗星は死を定めると信じられているのです。
同じ構造の似たようなお話は、韓国にも伝わっています。古来より北斗星は死を、南斗星は生を司ると信じられてきたのでしょう。
◇ 北斗七星と南斗六星
北斗七星は、北極星を中心にして毎日ひとまわりするので、時計に似ています。
日暮れ直後に現れるその位置は季節によって異なり、ひしゃくの柄が北の地平線を指すなら冬至が近く、東の地平線を指すなら春分が近く、真上を指していれば夏至が近く、西の地平線を指していれば秋分が近いので、暦の役割も果たします。
南斗六星とは、西洋星座のいて座の一部です。北斗七星はあまりにも有名なのに対して、南斗六星という名は、もともと星に関心がある人でないとご存じないかもしれません。
北斗といえば『北斗の拳』を思い出す人もいるでしょう。ケンシロウが使うのは、北斗神拳(陰の性質で一子相伝!という設定)。もうひとつは、南斗神拳(陽の性質でたくさん流派があるという設定)。ここでの「南斗」には、サザンクロス(南十字星)も混ざってきます。
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北斗 → 算命学なら玉堂星、四柱推命なら印綬
南斗 → 算命学なら鳳閣星、四柱推命なら食神
このあたり、次回以降また掘り下げていきましょう。
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◇ 寿命は占いでわかるのか?
いまわたしは漫画の『パリピ孔明』を読んでいます。三国時代の天才軍師、諸葛孔明が現代の渋谷に転生して女性ボーカルを売り出す超敏腕マネージャーになる、という荒唐無稽な設定なんですが、とてもおもしろい。
ときどき孔明は、ライバルの「顔相」をみて健康状態を言い当てて作戦に生かしたり、自分がその場にいない出来事の展開を占ったりしています。昔もきっとそういうことしてたんだろうとおもいます。とはいえ、占いはときどき出てくる飛び道具のようなもの。漫画だろうが現実だろうが、基本的には「観察」「戦略」「行動」が最優先で、占いはそこに変化を加えるためのエッセンスのようなものに過ぎません。
そう。基本的に「死期〜いつ死ぬか」は占ってはいけない、とされるテーマです。とはいえ、占いの勉強中や占い師になってからも、自分や家族、ペットなど身近な存在の寿命や生死を占ったことのある人はそれなりにいらっしゃることでしょう。とはいえ、あまりに身近な存在は冷静に読むことができませんし、占いですべて未来を見通せるわけではない。ですから、正確な死期の予測は難しいのでは?というのがわたしの意見です。
◇ 占いでできること・できないこと
占いによる未来予測は、はっきり当たることもあればぜんぜん当たらないこともあります。これは大前提です。そのうえで「この時期は健康状態に注意が必要」くらいの時期なら、占いでもある程度の目安がつきます。
これはビギナーズラックでうまく当たった例ですが、わたしは駆け出しの頃、手相で拝見した気になるポイントを(思い切って)申し上げたことがあります。その後、病院が大嫌いなその方がしぶしぶ検査を受けて大病が未然に見つかった、とお知らせをいただき、そのときは本当に驚きました。まずは大事に至る前に見つかってよかった!という気持ち、そしてわざわざそうやってお知らせくださったことに感謝しています。
具体的な治療法に関しては、主治医の方針が最優先です。しかし、そもそもの医師や病院選びに関するご相談でしたら、ときどき承ります。とはいえ「病状がいつどうなるか」について、わたしから具体的に申し上げられることはありません。体に触れる治療院を長らく営んでいたので「わたしはいつ治りますか?」という、すがるように切実な方々の心の辛さには数えきれないくらい向き合ってきました。だからこそ、曖昧な物言いで誤魔化しになるようなことは言いたくないのです。
昔ながらの王道で「わたしは不勉強なため、それはわかりません」という答えはとても優れています。いっとき自分を下げるだけです。なんでも要望に応えたり、相手の望む答えを差し出そうと無理をするよりときには「できない」と言える勇気も必要でしょう。
*みなさまからのお便りもお待ちしております。このメールに返信でOKです。
【参考文献】
△ アジアの星物語 東アジア・太平洋地域の星と宇宙の神話・伝説
https://www.hanmoto.com/bd/isbn/9784860500726
◆ こよみのページ「北斗七星と南斗六星」
http://koyomi8.com/doc/mlwa/200612050.htm
◆星の神殿「北斗と南斗」
http://www.asahi-net.or.jp/~nr8c-ab/afchnnanboku.htm
◆ Wikipedia「管輅」
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E7%AE%A1%E8%BC%85
◇ 正倉院宝物にみる神仙世界―天平人の桃源郷(PDF)https://shosoin.kunaicho.go.jp/api/bulletins/26/pdf/0000000016
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